発売中の新刊:『レイモン・アロンとの対話』
2013年 7月 4日
レイモン・アロンとの対話
ミシェル・フーコー西村和泉訳
装幀=中山銀士+金子暁仁
A5判上製/95頁/定価=1800円+税
ISBN978-4-89176-979-6 C0010 好評発売中!
権力はいかに行使されるのか?
二十世紀を代表する思想家ミシェル・フーコーと社会学者レーモン・アロン。立場のまったく異なる二人が、歴史解釈、主体の問題について語りあう、異例の対談。
2013年 7月 4日
2013年 6月 26日
バルザックが「私は書いたもののなかでもっとも美しい作品」と語った、『人間喜劇』の極北に位置しながら、『人間喜劇』全体に光を放射するバルザック文学の真骨頂!
2013年 6月 26日
目次
序章
第1部 ケアとして考える
第1章 コト的アプローチ — 「音楽の力」をめぐって
第2章 ミュージッキング再考 — 〈語り〉とケア
第2部 文化として位置づける
第3章 〈プレリュード〉 — 音楽と〈語りなおし〉
第4章 知覚・認識・記憶 — 音楽文化と身体
第5章 〈Living Together ラウンジ〉 — 音楽的儀式とメモリーワーク
断章 〈フェスティバル FUKUSHIMA!〉
第3部 アートとして再定義する
第6章 音楽とフェティシズム — 価値とコミュニケーションへの新たな視座
第7章 芸術実践のポリティクス — 芸術・ケア・文化への新たな視座
2013年 6月 26日
目次
序 事例としての日本
第1章 前‐近代化のプロセス——徳川時代の知と権力
一、徳川時代の社会システムの特色
二、知識体制
三、知識の社会的地位
四、知の秩序とその進化
五、三つの事例
第2章 近代化の条件
一、王政復古
二、開国の象徴的秩序
三、知識人——非自己実現的階層
第3章 近代化の思想
一、明治知識人の社会的地位
二、福沢諭吉による知の概念
三、開化の衝撃
四、近代
五、「本位」
六、文明化——原典と再読
第4章 近代性
一、近代性の概念
二、日本における近代性
三、森鷗外による混沌
四、漱石の近代性
第5章 近代化の終焉と近代性の超克
一、転向の概念
二、超国家主義的国家および国の概念
三、一九四二年東京——超克のジレンマ
四、一九四九年京都——ニヒリズムとアメリカニズム
五、戦後知識人——「悔恨の共同体」
第6章 近代の回帰——「知識社会」へ
一、ポストモダン運動とその時代
二、日本におけるポストモダンの時代とその変化
三、大いなる移行——「知識社会」としての日本
四、新たな近代化の始まり
五、二〇〇五年から見た二〇五〇年——研究政策にとっての社会的転換点
六、危機と災害を越えた再建
七、民主的進歩と新たな社会モデル
八、連続的制度イノベーション
結論 解体から再建へ——日本はどこへ行くのか?
註 /訳者あとがき
2013年 6月 21日
小社より昨年刊行された加藤有子さんの『ブルーノ・シュルツ 目から手へ』が第4回表象文化論学会賞を、また番場俊さんの『ドストエフスキーと小説の問い』が同じく奨励賞を受賞いたしました。おめでとうございます!
詳細は表象文化論学会のホームページをご覧下さい(*)
*
加藤有子
2013年 6月 3日
4月に刊行されたヴィジャイ・プラシャド著『褐色の世界史——第三世界とはなにか』は、激動の20世紀を《第三世界というプロジェクト》の視座から描き出し、その未発のままの歴史/運動/現在をトータルに概括する話題の書として欧米での評価が高く、長く邦訳が待たれていました。著者のヴィジャイ・プラシャドは、サイード亡き後、世界情勢についてもっとも精力的に語る論客として、注目を浴びていますが、本書も刊行以来、各誌紙で好評をいただいております。
◉ 柄谷行人氏(哲学者、『朝日新聞』6月1日付)
「本書から、私は第三世界に関する基礎的な史実を学んだ。〔……〕「第三世界」を滅ぼしたのは、この新帝国主義である。しかし、本書を読んで、私はこう思った。そう遠くない将来に、「第三世界」に代わるものが生まれるだろう、そして、それは新たな国連と結びつくだろう。」
◉ 池上善彦氏(元『現代思想』編集長、『図書新聞』4月27日号)
「著者の指摘するように〔……〕未だ世界全体の第三世界プロジェクトは再開されていない。しかしそこにこそ現在の我々の指針がある。考え抜いたと思った果てに、さらに世界は広がっている。世界は我々が考えるよりずっと広いものなのだ。本書を読んでそれを実感する。」
◉ 野中大樹氏(『週刊金曜日』4月19日号)
「第三世界はすでに消えたのか、今もあるのか。訳者である粟飯原文子氏は、あとがきでこう記す。『第三世界が『プロジェクト』であるのなら、決して消え去ってしまうことはない』と。」
*
また、来たる 6月16日(日)午前10時30分より、本書の刊行を記念して、ジュンク堂書店池袋本店においてトークイベントをおこないます。
今回のトークイベントは、本書の価値をいちはやく見出した池上善彦さん(元『現代思想』編集長)と、訳者の粟飯原文子さん(アフリカ文学・文化史)が、「21世紀に第三世界を考える——新しい世界史と日本のためのパースペクティヴ」と題して行ないます。ふるってお運びください!
*なお、本イベントは、おなじく粟飯原さんの訳によるアルンダティ・ロイ著『ゲリラと森を行く』を刊行する以文社さんとの共催になります。
▶ 「21世紀に第三世界を考える——新しい世界史と日本のためのパースペクティヴ」
▶ 講師:池上善彦(元『現代思想』編集長)×粟飯原文子(アフリカ文学・文化史)
▶ 日時:2013年6月16日(日) 午前10時30分〜
▶ 場所:ジュンク堂書店 池袋本店 TEL 03-5956-6111
▶ 入場料:1000円(ワンドリンク付)
——
2013年 5月 21日
小社より昨年6月に刊行された、藤原辰史さんの『ナチスのキッチン 「食べること」の環境史』が、記念すべき第1回の河合隼雄学芸賞を受賞いたしました。藤原さん、おめでとうございます!
「優れた学術的成果と独創をもとに、様々な世界の深層を物語性豊かに明らかにした著作に与えられる」という同賞の選考委員は、岩宮恵子、中沢新一、山極寿一、鷲田清一(五十音順)の各氏です。選考委員の諸先生および本書にご声援をいただいたみなさま、誠にありがとうございました!
詳細は河合隼雄財団のホームページをご覧ください(*)。
—
2013年 4月 22日
小社の新たなラテンアメリカ文学シリーズ〈フィクションのエル・ドラード〉の第1弾として発売後ご好評をいただいている、セルヒオ・ラミレス『ただ影だけ』(寺尾隆吉訳)では、原作者がニカラグアの元副大統領ということもあり、ニカラグアで実在した人物、実際にあった事件にインスピレーションを受け、史実とフィクションを織り交ぜながらさまざまな仕掛けを施しながら、独自の物語空間を展開しています。
そこで今回は、在ニカラグア日本大使館で勤務経験もあり、ニカラグアの政治が専門でいらっしゃる笛田千容さんに、物語を読む際のキーとなるニカラグアの歴史について解説をいただきました。『ただ影だけ』を読んだ後に一読していただけると、より一層作品の理解が深まるのはもちろんのこと、本を開く前にも本書のガイドとしてお読みいただけるものとなっております。
また本書は、新刊・既刊・ジャンルを問わず本を紹介している書評サイト「 Book News」でも取り上げて頂きました。ラテンアメリカ文学の背景や、作品に登場する(実在する)歌の動画も載せてあり、大変わかりやすい紹介です。そちらもあわせて御覧ください。
*
ニカラグアは南北アメリカ大陸をつなぐ中米地峡に位置する。太平洋と大西洋、両洋間の結節点という地理的特徴から、中米地峡を貫く交通路の重要性は、スペイン植民地時代から認識されていた。しかしそれが運河計画という形で浮上するのは、カリフォルニアが米国に併合され、ゴールドラッシュに沸き始めた1848年以降のことである。翌1849年、米国の運輸王コーネリアス・ヴァンダービルトは、同国の東海岸とサンフランシスコを結ぶニカラグア航路を創業し、ニカラグア運河計画の先鞭をつけた。蒸気船でカリブ海からコスタリカとの国境沿いを流れるサン・フアン川を遡上し、淡水湖としては世界屈指の規模を誇るニカラグア湖を横断する。そこから太平洋岸までは幾つかの異なるルートが想定されるが、距離にしてパナマ地峡のおよそ四倍。それでも、標高差が小さいニカラグア地峡は、運河建設の有力な候補地とされた。
はじめにニカラグア運河計画について触れた理由は、それがこの物語の遠景をなす19世紀後半から20世紀前半にかけての歴史的事件――ウィリアム・ウォーカーの侵略や、サンディーノ戦争――と密接に絡んでいるからである。保守党の将軍ポンシアーノ・コラルを処刑し、ニカラグアの大統領に就任した自由党側の米国人傭兵隊長ウォーカーの背後には、ニカラグア地峡通行権の独占を目論む米国資本の思惑が渦巻いていた。パナマ地峡における運河建設・管轄権の取得を画策した結果、1903年にパナマをコロンビアから独立させた米国政府は、ニカラグア運河計画をドイツや日本に持ちかけた自由党の独裁者ホセ・サントス・セラヤに対する保守党のクーデターに力を貸した。そして、自由党の反乱を抑えるために海兵隊を派遣し、米国への運河建設権の譲渡を含む「ブライアン=チャモロ協定」(1911年)を締結した。但し、その代償として海兵隊は、自由党の将軍アウグスト・セサル・サンディーノ率いる国民主権防衛軍との戦いに手を焼くことになる。
保守党と自由党の抗争は独立後の中南米諸国に共通するが、ニカラグアの場合、運河計画などをめぐる米国の干渉に晒された結果、保守党政権が長く続いた。19世紀後半、周辺国で自由主義が支配的となっても、ニカラグア自由党は侵略者ウォーカーを招き入れた不始末により権威を失墜していたため、なかなか政権をとることができなかった。ようやく登場したセラヤ自由党政権(1893-1909年)は前段のとおり、米国政府が後押しする保守党のクーデターにより失脚した。
そのことは、ニカラグアの資本家階級の発達の仕方に次のような影響を与えた。保守党と自由党は同国最古の都市グラナダとレオンをそれぞれ本拠地とする。保守党が砂糖や牧畜、商業などを手掛ける一方、自由党はコーヒーや綿花といった先進工業国向け一次産品の栽培を導入し、商業営利的農業の拡大と国際市場への参入を推進した。むろん、作中で保守党の名家であるチャモロ一族が綿花事業を手掛けているように、経済活動と党派制は完全に一致するものではない。とはいえ、セラヤ政権による自由主義改革が短命に終わったニカラグアでは、同時期の隣国エルサルバドルやグアテマラで見られたような、強大な権力を持つ「コーヒー・オリガルキー」は台頭しなかった。彼らによって土地を取り上げられた先住民や、農園で働く貧しい人々の反乱を抑えるために、資本家階級が軍部を重用し、権力を握らせることもなかったのである。
以上のような歴史的背景――強力な国軍の不在と米国海兵隊の駐留、自由主義改革の頓挫と国の実権を掌握する資本家階級の不在――が、ソモサ個人および一族による独裁を可能にした。中規模コーヒー農園主の息子アナスタシオ(通称タチョ)・ソモサ・ガルシアは、海兵隊が撤退前に創設を指導した国家警備隊の総司令官の座に就くと、サンディーノを暗殺し、自由党を牛耳り、大統領の座に就いた。そして、事実上の国軍となった国家警備隊を基盤に、タチョ、その長男ルイス、そして本作の中心人物の一人で、「ソモサ王朝」最悪の恐怖政治を敷いた次男アナスタシオ(通称タチート)の、三代にわたる独裁体制を築いたのである。
タチョは米国への留学経験から英語に堪能で、同国に挑戦的な態度をとることもなく、善隣政策(国家主権の尊重など)を掲げつつも自国の対外政策に従順であることを中米・カリブ地域諸国に期待する米国政府にとっては、都合の良い独裁者であった。そのことを端的に表すのが、フランクリン・ルーズベルト大統領の発言として伝わる「ソモサはブタ野郎だが、こっち側のブタ野郎だ」というわけである。冷戦が深刻化するなか、独裁の長期化も容認された。父親のタチョから国家警備隊総司令官の座を継承し、1967年に大統領の座に就いた次男タチートは、米国のウェストポイント陸軍士官学校仕込みの腕にものを言わせて、反対派や革命勢力を弾圧した。タチートの息子アナスタシオ(通称チグイン)・ソモサ・ポルトカレロは、高齢化・官僚化し始めた国家警備隊のいわば活性剤として、新たに創設された歩兵訓練学校(EEBI)の長官に就任した。そして、ベトナム戦争帰りの元米軍特殊部隊戦闘員を顧問に招聘し、若手精鋭部隊を操って白色テロを展開した。
ソモサは急速かつ不正に富を蓄積しながら、その恩恵に預かろうとする側近や、独裁者に協力的な経済界のメンバーからなる権力集団を形成していった。まず、米国が第二次世界大戦に参戦したことをうけてニカラグア政府も枢軸国に宣戦布告すると、ドイツ人移民やイタリア人移民の資産(コーヒー農園など)を接収し、私物化した。先住民の共有地を解体し、コーヒーや綿花の栽培地を広げた。作中、タチートが手掛ける肉用生体牛の輸送船が出航するが、これはもともと牧畜を手掛けていた南東部(保守党)の経済エリートにコスタリカやパナマへの肉牛の輸出を禁じ、一族が独占したものである。ラニカ航空や国営宝くじ会社も、1960年代頃に多角化されたソモサ系企業の一例である。なかでも国民の恨みをかったのは、貧窮者から血液を買いとり、抽出した血漿(プラズマ)を米国の医療業界に販売していたプラズマフェレシス社である。国民の「血」を売り渡すという、吸血鬼的イメージが政権に与えたダメージもさることながら、そのことを批判した『プレンサ』紙社主・主筆ペドロ・ホアキン・チャモロが暗殺されたことで、国民の間に抗議の波が広がったことは作中にあるとおりである。
一方、ソモサ一族、およびソモサ派と呼ばれる権力集団を敵手とするニカラグアの革命運動は、階級闘争を掲げる人々を含みながらも、多分に階級横断的な国民運動としての性格を持ち合わせていた。キューバ革命に刺激を受けて武装したサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)が、反米・反帝国主義の英雄サンディーノをシンボルに掲げたことにも、その一端が表われている。かつてサンディーノ戦争に参加したエルサルバドルの革命家ファラブンド・マルティは、階級闘争よりもナショナリズムに燃えるサンディーノとの温度差を感じて連帯を諦め、距離を置くようになったと言われる。ニカラグアの革命運動は当時既に、資本家階級を敵手とする隣国エルサルバドルの革命運動とは異なる性格を見せ始めていた。
それ故か、ニカラグアのエリート層はFSLNを必ずしも敵視しない。作中人物イグナシオ・コラルのように、社会正義を求めてFSLNに協力するのも、決して珍しいことではなかった。チグインの手下に暗殺された新聞社社主ペドロ・ホアキン・チャモロは保守党の名家の出身で、その未亡人ビオレタ・チャモロは1990-97年の大統領だが、彼らの四人の子供のうち、二人はFSLNのメンバーである。FSLNの「クリスマス作戦」で唯一命を落としたカスティージョ前農牧大臣(作中ではパラシオス前国家開発院長官)の娘は、その後ソモサ派ではなく、父親の仇とも言えるFSLNの一員に加わっている。ニカラグア革命は、その階級横断的な性格が、ときに出自や身分によって隔てられた人々を結びつけ、ときに家族や友人たちを引き離してきたのである。
最後に、本作では実在した人物や事件とラミレスの創作が錯綜するが、特筆すべきは主人公アリリオ・マルティニカと、「性悪のメサリナ」である。前者はタチートの腹心として国会議長などを務めたコルネリオ・ヒュック、後者はタチートの愛人ディノラ・サンプソンを強く彷彿とさせる。以下、この二人の人物を中心に、物語の背景やその後日談などについて述べる。
ディノラ・サンプソンは、もともとラジオ局に務める典型的なパーティー・ガールであった。それが1962年頃タチートに引き合わされ、家屋敷などを与えられて贅沢三昧の生活を送るようになり、国の財産で奢侈淫逸にふける独裁者のイメージを国民に植え付けた。タチートの側近らに自分への忠誠を誓わせるなど、愛人の威を借りて女帝のように振る舞っていた。作中、メサリナのイメージを「マラカニアン宮殿に外国製靴三千足」で知られるフィリピンの元独裁者夫人イメルダ・マルコスに重ねているのも頷ける。
影のファーストレディであるディノラに対し、公式のファーストレディであるホープ・ポルトカレロは、良くも悪くも、同国の上流階級を象徴する存在である。母親は名門テバイレ=サカサ一族の出身で、自身はマイアミで生まれ育った。ジャクリーヌ・ケネディ米大統領夫人と並び称される社交界のファッション・リーダーで、一族と縁の深いニカラグアの国民的詩人ルベン・ダリオの名を冠した国立劇場の建設計画に尽力した。
二人の確執(というか、この場合ディノラの一方的な嫌がらせ)が関係省庁を巻き込んで劇場建設の妨げになったというのは、あり得る話のように思われる。ただし、同計画が始動したのは1966年だが、1967年にルイスからタチートへの政権交代があり、その後ルイスが他界したことなどから空白期間が生じた可能性もある。1972年のマナグア大地震に耐えられたほどの建造物であるから、基礎工事などに予定外の時間を費やしたかもしれない。いずれにせよ、本来であればダリオの生誕百周年にあたる1967年頃を目指していたはずの劇場の完成が、1969年までずれこんだことは事実である。
コルネリオ・ヒュックは、自由党党首や国会議長などを歴任し、非軍事面から独裁政権を支えた。妻のリア・プラタも、自由党女性部の幹部に名を連ねた。詳細は定かではないが、革命の二年ほど前にタチートとの関係がこじれたことは事実のようである。ヒュックは1979年、家族を国外に脱出させた後、所有していた農園から誘拐・殺害され、1994年に遺体で発見された。遺体はパジャマ姿のまま、後ろ手に縛られていたという。
主人公アリリオ・マルティニカが民衆裁判にかけられるくだりは、革命後、必ずしも旧ソモサ派とは言えない企業や私邸までをも接収の対象とし始めたFSLNのやり方を彷彿とさせる。それは、広場にFLSNの支持者を集め、誰それの私有財産を接収することの是非を問い、拍手や歓声をもって正当性を確保するというものである。むろん、コルネリオ・ヒュックは紛う方なきソモサ派であるから、その財産は政令に基づき申し分なく接収されたであろう。
ただし、接収された財産の行方は必ずしも明確ではない。不動産ロンダリングが横行し、国の登記制度や財産調査制度に大きな欠陥があるからだ。ヒュックがリバス県トーラ市内に所有していた美しい海辺の土地(作中名はサンタ・ロレナ)は近年、米国資本等によるリゾート開発候補地として脚光を浴びると同時に、名義がごちゃごちゃになっていることも露呈した。果たして、1980年代のサンディニスタ政権期に軍部から外国人投資家などを経てヒュックの遺族に買い戻されたのか、ボラーニョス政権期に公的部門持株会社(CPONRAP)からアレマン前大統領の関連会社に渡ったのか、依然として国有地なのか。同一の不動産に対し異なる不動産権の主張がある。
一方、マサヤ市の邸宅は市庁舎として使われている。2001年、そこに市長として初登庁したのは、ヒュックの孫のカルロス・イバン・ヒュックである。1994年、祖父の遺体埋葬のために一族の亡命先であるマイアミより帰国したカルロスは、ニカラグア政界でのしあがれると思ったのか、そのまま同国に留まった。そして、政治に関与してはならないという母親の以前からの言いつけに背き、一族の出身地であるマサヤの市長選に出馬し、当選を果たしたのである。そして任期満了から二年後の2008年、在任中の公金横領と不正蓄財で起訴される。
このように、汚職そして法治の欠如という、本作で描かれる権力の濫用の副産物は、今日もニカラグアに暗い影を投げかけている。
笛田千容
(東京大学大学院総合文化研究科北米・中南米地域文化講座助教)
—-
フィクションのエル・ドラード
2013年 1月 31日
大変お待たせいたしました……!
2011年に小社より刊行した『小島信夫批評集成』(全8巻)の全巻ご購読者にもれなくお届けする特典『ふしぎな昂奮』が、ようやく完成いたしました! 本批評集成の逸文より、批評家/エッセイストとしての作家の魅力あふれる10篇を精選収録。140部の限定本です。申込みハガキ等でご登録いただいていたみなさまには、すでに書店様を通じて届いているかと存じます。ぜひ、ご賞玩ください。
このたびは刊行が遅れて誠に申しわけございませんでした。どうか引き続き小社刊行物にご注目ください。
*
小島信夫
2013年 1月 31日
2月に以下の劇団の公演が東京・両国のシアターX(カイ)で行なわれます。
「オハイオ即興劇」「あしおと」「ゴドーを待ちながら」等ベケットの代表作をとりあげた評論集『サミュエル・ベケット!』(小社刊、3990円)を公演期間中販売しております。ぜひあわせて手にとってみてください。
*
あのアイルランドから、気鋭の劇団「マウス オン ファイア」初来日公演!
サミュエル・ ベケット作「オハイオ即興劇」「あしおと」「あのとき」「行ったり来たり」……消滅するまえに……
ベケット後期の作品を、作家自身が作成した演出ノートに基づき創出された4つの “ 演劇詩 ” 。
公演期間:2013年2月13日〜17日
チケット 先着60席 限定! 1,000円!
http://www.theaterx.jp/13/130213-130217p.php
お問い合わせ:シアターX(カイ)
Webサイト:http://www.theaterx.jp/
メールアドレス:info@theaterx.jp
〒130-0026 東京都墨田区両国2-10-14
TEL:03-5624-1181 FAX:03-5624-1155
2012年 12月 26日
12月の営業は28日(金)をもって仕事納めとさせていただき、
新年は1月7日(月)より営業させていただきます。
27日以降にご注文いただいた書籍については、
年明けの搬入となりますので、なにとぞご了承ください。
1年間、小社の刊行物をご愛読いただき、誠にありがとうございました。
年明け1月に配本となる『リモンの子供たち』で、
《レーモン・クノー・コレクション》もひとまず完結。
また、新シリーズ《ロックの名盤!》が、
『レッド・ツェッペリン Ⅳ』『アバ』を皮切りに始まりました。
その他、来年も水声社ならではの企画を準備中です。
どうぞお楽しみに!
なお、恒例になってきた2012年の刊行書籍一覧を以下に掲出します。
現在発売中の『図書新聞』(2013年1月1日号)に掲載されているものです。
年末年始の読書計画にお役立てくだされば幸いです(クリックで拡大)。
ブログの更新も本日かぎり(の予定)です。よいお年を!
2012年 9月 5日
戦後文学を代表する文人・中村真一郎の、旧制第一高等学校在学中の日記を翻刻した『中村真一郎 青春日記』(小社刊)は、早熟なこの作家の読書遍歴はもちろん、福永武彦をはじめとする作家たちとの交友からプライベートの一面までを、まざまざと現代によみがえらせる超一級の資料として、各メディアで好評をいただいております。
そこで今回、この日記に描かれたさまざまな事象のなかから、とりわけ「旧制高校」という文化・思想・生活に着目して、中村真一郎の会、国際日本文化研究センターの共催で、パネルディスカッションを開催いたします。ふるってお運びください。
パネルディスカッション
2012年 8月 6日
小社刊、藤原辰史著『ナチスのキッチン——「食べること」の環境史』は、おかげをもちまして、各紙誌で好評をいただいております。先にご紹介した 各新聞、ウェブサイトのほか、7月29日付の朝日新聞朝刊では、作家の 出久根達郎さん が書評してくださいました。日本の現実とも重ねてとらえた貴重な評言、ありがとうございました。全文はこちらをクリック→(*)
また、同27日付の 週刊読書人 さんの企画、「2012年上半期の収穫から」では、ドイツ文学者の 池田浩士さん が取り上げてくださいました。
「食生活という最も基本的な日常の営みに即して、ナチズムと国民との関係(流行語で言えば「絆」)」の在り方を描き出したユニークな研究。私たち自身の生き方を問い直すうえでも、刺激的なてがかりとなる」
と高く評価していただいております。池田さん、ありがとうございました。
そのほか、各ブログをはじめ、Twitter、Facebook 等の SNS でもご高評くださったみまさま、著者の藤原さんともども感謝しております!
アマゾンさんでは品切れが続いておりますが、小社の倉庫にも在庫がない状態です……。全国のリアル書店さん、ネット書店さんではまだ入手可能ですので、ぜひ、いまのうちにお求めいただければ幸いです。
*
なお、その『ナチスのキッチン』をめぐって、2つのインタビューが公開されました。
ひとつはすでに USTREAM 上で閲覧できるもので、渋谷でユニークなコミュニティを形成している「渋家」で収録されたものです。藤原さんのモティーフに、若いひとたちが斬り込んでいます。90分弱にわたるセッション、ぜひご視聴ください。こちらをクリック→(*)
*
そしてもうひとつ、『図書新聞』8月4日号に掲載された、ロングインタビューです。著者自身が語る、本書の非常に充実した解説になっています。今回、図書新聞さんのおゆるしをえて、以下に全文を転載させていただきます。転載をご快諾いただいたS編集長に重ねて御礼申しあげます!
——
2012年 7月 18日
2012年 7月 12日
代表作『北回帰線』や問題作『セクサス』など、文豪の全体像を知るうえで
もっとも充実したテクストとして、好評発売中の『ヘンリー・ミラー・コレクション』。
そのヘンリー・ミラーの回顧展が、東京・青山の スパイラルガーデン で開催中です。
小社もご協力させていただいており、入場無料です。
ぜひ、ミラーのもうひとつの側面をお楽しみください。
*
アメリカの文豪ヘンリー・ミラーの生誕120年を記念し、
ミラーの最後の妻として知られるホキ徳田氏が中心となって、
展覧会を開催します。
この展覧会では、ミラーが趣味で描いていた
水彩画、写真、手書きの原稿、手紙、映画や展覧会のポスター、
掲載誌や新聞の切り抜き、手作りのコラージュなど、
日本未発表のものも含め多数展示し、
「文豪ヘンリー・ミラー」とは違う一面をお届けします。
また展示期間中には、
毎晩18:00〜20:00に日替りミニライブを開催いたします。
◆イベント概要
会期:2012年7月3日(火)〜7月16日(月・祝)11:00〜20:00
会場:東京都港区南青山5-6-23スパイラルガーデン(スパイラル1F→*)
〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23 スパイラル1F(地図はこちら→*)
入場料:無料
主催:ヘンリー・ミラー展実行委員会
ヘンリーミラー・メモリアルバー「北回帰線」
特別協賛:大木製薬(株)、InterFM 76.1MHz
協賛:(株)日本エスカレーター広告協会、(株)光伸プランニング、
(社)日本旅行作家協会、港区観光協会、(株)シバヤマ
協力:(株)水声社、(株)文遊社、Cómo le va?、DIC(株)、
(株)アンドモア、月刊誌『正論』
楽器協力:ヤマハ(株)
監修コーディネイト:ホキ徳田/企画プロデュース:川幡浩
会場協力:(株)ワコールアートセンター
お問い合わせ:北回帰線(キタカイキセン→*) TEL:03-5474-3900
2012年 7月 11日
2012年 7月 10日
2012年 7月 10日
2012年 6月 21日
突然ですが、来たる今週24日(日)、
ミュージシャンで音楽評論家の
サエキけんぞうさん がプロデュースする
一大イベント《ゲンスブール・ナイト2》で、
小社から評伝『ジーン・セバーグ』(2011)、
『FBI vs ジーン・セバーグ』(2012)の2冊が刊行された、
アメリカ/フランスで活躍した女優、
ジーン・セバーグ(1938-1979)のトークセッション開催決定!
サエキけんぞうさんの対話相手をつとめてくださるのは、
女優で映画評の筆もとられる 水島裕子 さんです。
開催まであとわずかに迫ってしまいましたが、
フランス大使館後援で一日じゅう踊りまくれるこのイベント、
みなさま、ふるってお運びください!
当日は、小社の営業部が物販もします!
詳細は以下の通りです。
—
ゲンスブール・ナイト2012の その2 が決定しました!
今回は、フランス大使館の後援を得て、徹底的にやります!
後続発表のイベント内催しもあります!ぜひぜひ!