10月の新刊:カズオ・イシグロと日本

2020年 10月 20日 コメントは受け付けていません。

カズオ・イシグロと日本=カバー.inddカズオ・イシグロと日本
幽霊から戦争責任まで
田尻芳樹+秦邦生(編)
レベッカ・L・ウォルコウィッツ+荘中孝之+麻生えりか+加藤めぐみ+菅野素子+マイケル・サレイ+三村尚央+レベッカ・スーター(著)

判型:四六判上製
頁数:317頁
定価:3000円+税
ISBN:978-4-8010-0508-2 C0098
装幀:宗利淳一
10月23日ごろ発売!

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「日本らしさ」でも「日本的」でもない、
カズオ・イシグロの《日本》はどこにあるのか?

芸術、戦争、原爆、幽霊、故郷――
日本を舞台にした『遠い山なみの光』『浮世の画家』など初期作品の読解はもちろん、未刊行の草稿ノート類の調査によって見出された、日本をめぐる幻の作品たちも大々的に紹介・考察。
イシグロに潜在し、イシグロを包みこむ、近くて遠い《日本》のかたちを見晴るかす。

***

2017年のノーベル文学賞受賞をもって、イシグロは「世界文学」の巨匠としての地位を確立したように思える。しかし彼がいま日本からどれほど離れているのかを知るためには、その出発点にあった遠い「日本」――決して自明ではない、不透明な「日本」――を多角的に復元する作業が必須のはずである。本書は、そのような「世界」と「日本」との緊密な弁証法を触知するための試みである。



目次

まえがき 田尻芳樹

イシグロの背信 レベッカ・L・ウォルコウィッツ/井上博之訳
夕餉に響く山の音とキリストの声 荘中孝之
未刊行の初期長編「長崎から逃れて」――カズオ・イシグロの描く原爆 麻生えりか
幻のゴースト・プロジェクト――イシグロ、長崎、円山応挙 加藤めぐみ
フィルムのない映画――吉田喜重による『女たちの遠い夏』 菅野素子
『浮世の画家』を歴史とともに読む 田尻芳樹
イシグロの名声 マイケル・サレイ/奥畑豊訳
自己欺瞞とその反復――黒澤明、プルースト、『浮世の画家』 秦邦生
『わたしたちが孤児だったころ』における故郷への違和感と失われた母語 三村尚央
「蜘蛛であること」――カズオ・イシグロの二世界文学 レベッカ・スーター/与良美紗子訳

[コラム]
イシグロと近代日本の歴史 秦邦生
イシグロとエドワード・サイデンステッカー 秦邦生
NHKドラマ『浮世の画家』 田尻芳樹
『上海の伯爵夫人』の憧れ 三村尚央

「イシグロと日本」文献紹介 三村尚央

あとがき――「日本」から遠く離れて 秦邦生


編者・著者・訳者について
田尻芳樹(たじりよしき)  
東京大学教授(イギリス文学)。著書に、Samuel Beckett and the Prosthetic Body: The Organs and Senses in Modernism(Palgrave Macmillan, 2007)、『ベケットとその仲間たち――クッツェーから埴谷雄高まで』(論創社、2009年)、Samuel Beckett and Trauma(共編著、Manchester University Press, 2018)などがある。
秦邦生(しんくにお)  
東京大学准教授(イギリス文学)。著書に、『終わらないフェミニズム――「働く」女たちの言葉と欲望』(共編著、研究社、2016年)、『イギリス文学と映画』(共編著、三修社、2019年)、論文に、“The Uncanny Golden Country: Late-Modernist Utopia in Nineteen Eighty-Four”(Modernism/Modernity Print Plus, 2017)などがある。

レベッカ・L・ウォルコウィッツ(Rebecca L. Walkowitz)  
ラトガーズ大学教授(イギリス文学)。著書に、Cosmopolitan Style: Modernism Beyond the Nation(Columbia University Press, 2006), Immigrant Fictions: Contemporary Literature in an Age of Globalization(ed., University of Wisconsin Press, 2007), Born Translated: The Contemporary Novel in an Age of World Literature(Columbia University Press, 2015)などがある。
荘中孝之(しょうなかたかゆき)  
京都女子大学教授(比較文学・イギリス文学)。著書に、『カズオ・イシグロ――〈日本〉と〈イギリス〉の間から』(春風社、2011年)、『カズオ・イシグロの視線――記憶・想像・郷愁』(共編著、作品社、2018年)、『カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで』(共著、水声社、2018年)などがある。
麻生えりか(あそうえりか)  
青山学院大学教授(イギリス文学)。著書に、『戦争・文学・表象――試される英語圏作家たち』(共編著、音羽書房鶴見書店、2015年)、『終わらないフェミニズム――「働く」女たちの言葉と欲望』(共編著、研究社、2016年)、論文に、「孤独な執事の旅行記――冷戦小説として読むカズオ・イシグロのThe Remains of the Day」(『ヴァージニア・ウルフ研究』第35号、2018年)などがある。
加藤めぐみ(かとうめぐみ)  
都留文科大学教授(イギリス文学・文化)。著書に、『終わらないフェミニズム――「働く」女たちの言葉と欲望』(共著、研究社、2016年)、『英国ミドルブラウ文化研究の挑戦』(共著、中央大学出版部、2018年)、論文に「トランスアトランティック・ノスタルジア――『夜想曲集』が奏でる〈帝国アメリカ〉への見果てぬ夢」(『都留文科大学 英語英文学論集』第47号、2019年)などがある。
菅野素子(すがのもとこ)  
鶴見大学文学部准教授(イギリス文学・英語文学)。著書に、Kazuo Ishiguro: New Critical Visions of the Novels(共著、Palgrave Macmillan, 2011)、『カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで』(共著、水声社、2018年)、論文に、「未翻訳の英語圏文学作品をどのようにして英語で読ませるか――Katherine Mansfield “The Garden Party”とWiti Ihimaera “This Life is Weary”を取り上げた授業を振り返る」(『比較文化研究』第21号、2019年)などがある。
マイケル・サレイ(Michael Szalay)  
カリフォルニア大学教授(アメリカ文学、メディア論)。著書に、New Deal Modernism: American Literature and the Invention of the Welfare State(Duke University Press, 2000), Hip Figures: A Literary History of the Democratic Party(Stanford University Press, 2012)などがある。
三村尚央(みむらたかひろ)  
千葉工業大学教授(イギリス文学、記憶研究(Memory Studies))。著書に、『英米文学を読み継ぐ――歴史・階級・ジェンダー・エスニシティの視点から』(共著、開文社出版、2012年)、『カズオ・イシグロの視線――記憶・想像・郷愁』(共編著、作品社、2018年)、『カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで』(共編著、水声社、2018年)などがある。
レベッカ・スーター(Rebecca Suter)  
シドニー大学准教授(現代日本文学・文化、比較文学)。著書に、The Japanization of Modernity: Murakami Haruki between Japan and the United States(Harvard University Press, 2008), Holy Ghosts: The Christian Century in Modern Japanese Fiction(University of Hawaii Press, 2015), Two-world Literature: Kazuo Ishiguro’s Early Novels(University of Hawaii Press, 2020)などがある。

井上博之(いのうえひろゆき)  
東京大学講師(アメリカ合衆国の文学・映画)。論文に、“‘A Southern California Beach That Never Was’: Adapting the Noir City in Inherent Vice”(『言語文化』第36号、2019年)、“Southwestern Cartographies: The Poetics of Space in Contemporary Narratives of the U. S. Southwest”(Ph.D. Dissertation, University of Arizona, 2017), “The Hi Lo Palimpsest: Remapping the West(ern) in Bobby Jack Smith, You Dirty Coward!”(The Journal of the American Literature Society of Japan, 2016)などがある。
奥畑豊(おくはたゆたか)  
日本女子大学専任講師(イギリス文学)。著書に、『ユダヤの記憶と伝統』(共著、彩流社、2019年)、Angela Carter’s Critique of Her Contemporary World: Politics, History, and Mortality(Peter Lang, forthcoming), 論文に、「ハリウッド、冷戦、家庭――Angela CarterのThe Passion of New Eveにおける女性像の構築」(『英文学研究』第95巻、2018年)がある。
与良美紗子(よらみさこ)  
ロンドン大学クイーン・メアリー校博士課程在籍(イギリス文学)。論文に、“‘And Of Course She Enjoyed Life Immensely’: Fun, Triviality, and the Sense of Calling in Mrs Dalloway”(『ヴァージニア・ウルフ研究』第37号、近刊)などがある。


関連書
カズオ・イシグロ 失われたものへの再訪――記憶・トラウマ・ノスタルジア/ヴォイチェフ・ドゥロンク、三村尚央訳/3500円+税
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで/田尻芳樹・三村尚央編/3000円+税
カズオ・イシグロ――境界のない世界/平井杏子/2500円+税

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