10月の新刊:カズオ・イシグロ 失われたものへの再訪

2020年 10月 20日 コメントは受け付けていません。

カズオ・イシグロ失われたものへの再訪カズオ・イシグロ 失われたものへの再訪
記憶・トラウマ・ノスタルジア
ヴォイチェフ・ドゥロンク(著)
三村尚央(訳)

判型:四六判上製
頁数:354頁
定価:3500円+税
ISBN:978-4-8010-0509-9 C0098
装幀:宗利淳一
10月23日ごろ発売!

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目をそらすためにふり返る
喪失を語りたいという欲望、喪失を忘れたいという欲望、喪失が起こる前に戻りたいという欲望――
カズオ・イシグロの作品群に通底する中心的概念である〈記憶〉と〈喪失〉の複雑な関係を、フロイトをはじめとする精神分析理論、原爆の被爆者たちを対象としたトラウマ理論、ノスタルジアをめぐる文化理論などを援用しながら緻密に探る、はじめての批評的試み。

***

……トラウマ的なつらい経験や、社会的評価の失墜、人間関係の失敗、あるいは故郷(ホーム)の喪失という形を取っているかどうかにかかわらず、そうしたつらい出来事は、それ以前の意味ある豊かな場として回顧的に形成される過去と、その事件以後(語りの現在までも)続いている、喪失感と不満足、そしてノスタルジアに彩られた時期とを分ける峻険な断絶線として働いている。語り手たちはそうした喪失を過去のものとして閉じ込めておくことができず、それに対する抑圧された罪悪感や、強い失敗感や幻滅などにとらわれ続けている……



目次

日本語版への序


序論 失われたものを思い出す
意味に満ちた再構成――バートレットによる記憶の理論
治療的な自己叙述を構成すること――フロイトの想起の理論
現代における記憶
喪失を理論化する――フロイト、ラカン、デリダ、そしてその先へ


第一部 語りたいという欲望――喪失・記憶・叙述
はじめに
叙述――批評についての導入

第一章 かつての栄光という影――『浮世の画家』と『日の名残り』
過去の現前、現在の不在
喪失を定義する

第二章 語りのパターンを求めて――『浮世の画家』と『日の名残り』
過去をプロット化する
小野の告白
スティーブンスの弁明
芸術家小説、日記、回想録などの自伝的形式
記憶と叙述構築

第一部への結語 自己認識と自己欺瞞のあいだで


第二部 忘れたいという欲望――喪失・記憶・トラウマ
はじめに
トラウマ――批評についての導入

第三章 亀裂を埋め、罪悪感を払う――『遠い山なみの光』
原爆後トラウマと喪失の大きさ
亡霊のように現前する喪失
目をそらすためにふり返る――トラウマを想起する

第四章 過去に幽閉されて――『充たされざる者』
喪失を定義し、トラウマを見つけだす
傷の世話をする――トラウマの反復と持続
想起することの失敗、忘却することの失敗

第二部への結語 過去の亡霊


第三部 帰還への欲望――喪失・記憶・ノスタルジア
はじめに
ノスタルジア――批評についての導入

第五章 失われた無垢を求めて――『わたしたちが孤児だったころ』
上海からの離脱とそこへの回帰――喪失と継続するその影響
より良き世界と不可能な帰郷へのノスタルジア
より良き世界の記憶を固定する

第六章 失われた楽園という避難所を求めて――『わたしを離さないで』
喪失の対象を定義する――ヘールシャムとその重要性
「わたしを離さないで」の紛失と発見
戻りたいという渇望――ヘールシャムへのノスタルジア
避難所としての記憶

第三部への結語 いまも孤児であり続ける


結論 手離してゆくのか?


[付論] 『忘れられた巨人』をめぐって



文献一覧
索引

訳者あとがき


著者・訳者について
ヴォイチェフ・ドゥロンク(Wojciech Drąg)  
1984年、ポーランドのワルシャワに生まれる。ヴロツワフ大学准教授(イギリス文学、比較文学)。主な著書に、『意味の探求――ジュリアン・バーンズの初期小説』(The Pursuit of Meaning in the Early Novels of Julian Barnes, Saarbrücken Scholars’ Press, 2015)、『感情のスペクトル――愛から悲哀まで』(共編著、Spectrum of Emotions: From Love to Grief, Peter Lang GmbH, 2016)、『戦争と言葉――文学とメディアにおける軍事行為の表象』(共編著、War and Words: Representations of Military Conflict in Literature and the Media, Cambridge Scholars Publishing, 2016)、『21世紀の英語文学におけるコラージュ――危機の芸術』(Collage in Twenty-First-Century Literature in English: Art of Crisis, Routledge, 2019)などがある。

三村尚央(みむらたかひろ)  
1974年、広島県に生まれる。千葉工業大学教授(イギリス文学、記憶研究(Memory Studies))。主な著書に、『英米文学を読み継ぐ――歴史・階級・ジェンダー・エスニシティの視点から』(共著、開文社出版、2012年)、『カズオ・イシグロの視線――記憶・想像・郷愁』(共編著、作品社、2018年)、『カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで』(共編著、水声社、2018年)、『カズオ・イシグロと日本――幽霊から戦争責任まで』(共著、水声社、2020年)、訳書に、アン・ホワイトヘッド『記憶をめぐる人文学』(彩流社、2017年)などがある。


関連書
カズオ・イシグロと日本――幽霊から戦争責任まで/田尻芳樹・秦邦生編/3000円+税
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読む――ケアからホロコーストまで/田尻芳樹・三村尚央編/3000円+税
カズオ・イシグロ――境界のない世界/平井杏子/2500円+税

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