4月の新刊:ロシア哲学史——〈絶対者〉と〈人格の生〉の相克

2022年 3月 25日 コメントは受け付けていません。

ロシア哲学史_書影ロシア哲学史
〈絶対者〉と〈人格の生〉の相克
イーゴリ・エヴラームピエフ(著)
下里俊行+坂庭淳史+渡辺圭+小俣智史+齋須直人(訳)

判型:A5判上製
頁数:640頁
定価:8000円+税
ISBN:978-4-8010-0625-6 C0010
装幀:西山孝司
4月中旬頃発売!

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パラドックスに満ちた異形の思想史
キリスト教的プラトニズムとグノーシス主義的神秘主義の対立という図式で、中世から20世紀前半に至るロシア哲学史の総体を読み解き、調和と不協和が織りなす種々の思想潮流から、絶対的で精神的な〈神〉と、時限的で物質的な〈人格の生〉をめぐる、卓越した問題意識の体系を抽出する。
20世紀初頭の〈銀の時代〉における宗教哲学の潮流、ドストエフスキーやトルストイをはじめとする文学者、さらには映画監督タルコフスキーまで、西欧哲学史の文脈をふまえながら著者独自の観点で思想史を大胆に整理した、かつてない〈ロシア哲学〉通史。

目次

日本語版への序文  

はじめに――世界哲学を背景にしたロシアの哲学思想  

第一章 ロシア哲学前史(十―十七世紀)  

 1 ルーシの霊的文化におけるキリスト教的要素と異教的要素の統合  
 2 中世ルーシの聖像画の世界観  
 3 ビザンチン神学とルーシにおける最初の神学的・哲学的著作  
 4 十六―十七世紀の文化における哲学の諸要素  

第二章 ロシアにおける哲学の誕生(十八世紀)  

 1 ロシアの啓蒙思想
 2 フリーメーソンとロシア哲学におけるグノーシス主義的・神秘主義的伝統
 3 G・スコヴォロダーの哲学的見解
 4 十八世紀の社会・政治的ユートピア――A・ラジーシチェフ

第三章 哲学の基本的方向性の形成(十九世紀前半)

 1 A・プーシキンとP・チャアダーエフ――ロシア文化とロシア哲学のパラダイム
 2 ロシアのシェリング哲学――V・オドーエフスキー
 3 スラヴ派――A・ホミャコーフとI・キレーエフスキー
 4 西欧派――A・ゲルツェン
 5 唯物論と実証主義への運動――N・チェルヌィシェフスキー

第四章 F・M・ドストエフスキーの哲学的見解

 1 ドストエフスキーの生涯と作品
 2 ドストエフスキーの創作における信仰の問題
 3 新しい人間理解
 4 〈絶対者〉としての人格
 5 ドストエフスキーの小説におけるイエス・キリストの形象
 6 キリストとキリーロフ
 7 愛と自由の弁証法
 8 ドストエフスキーとヨーロッパの実存主義の始まり

第五章 L・トルストイ、N・フョードロフ、「後期」スラヴ主義者たちの宗教的・倫理的探求

 1 L・N・トルストイの著作におけるキリスト教の倫理的解釈
 2 N・フョードロフの「共同事業の哲学」――ロシア宇宙主義
 3 N・ダニレフスキーの歴史的・文化学的構想
 4 K・レオンチエフの宗教的・保守的「ユートピア」

第六章 V・ソロヴィヨフの哲学体系

 1 V・ソロヴィヨフの生涯と著作
 2 「真の哲学」の探求
 3 抽象原理批判、新しい形而上学の探求
 4 「存在」と「真実在」の形而上学と〈絶対者〉の二つの概念
 5 全一性の概念と〈神人性〉の思想
 6 自然と社会の進化
 7 S・トルベツコーイとE・トルベツコーイの著作におけるV・ソロヴィヨフの思想の発展

第七章 ロシアのライプニッツ主義とカント主義

 1 ロシア思想の新しい諸潮流の形成
 2 A・コズローフのライプニッツ主義
 3 L・ロパーチンの人格主義的形而上学
 4 A・ヴヴェジェンスキーの「批判哲学」
 5 二十世紀初頭の哲学におけるカント主義の伝統の展開

第八章 『キリスト教に関する論争』――V・ローザノフ

 1 ドストエフスキーの後継者
 2 キリスト教に対する「非難」
 3 人間に関する実存主義的概念とキリスト教の「正当化」

第九章 L・シェストフの宗教的実存主義

 1 人間の生と抽象的原則
 2 アテネとエルサレム――〈絶対者〉を理解するための二つの取り組み
 3 真の信仰のパラドックス――ヨブとアブラハムの物語

第十章 N・ロースキーの哲学体系

 1 直観主義の認識論
 2 実体的活動者たちの体系としての世界
 3 「敵対の国」と〈神の国〉

第十一章 「新しい宗教意識」とN・ベルジャーエフの哲学

 1 D・メレシコフスキーと「新しい宗教意識」の思想
 2 N・ベルジャーエフの哲学におけるキリスト教グノーシスの思想
 3 N・ベルジャーエフの人格主義
 4 堕罪と客体化
 5 時間の問題と客体化の創造的克服
 6 〈神〉、人間、〈無〉

第十二章 P・ストルーヴェ、P・ノヴゴローツェフ、B・ヴィシェスラフツェフの倫理学と社会哲学

 1 P・ストルーヴェの哲学思想
 2 P・ノヴゴローツェフの法哲学
 3 B・ヴィシェスラフツェフの倫理学と形而上学

第十三章 S・フランクの形而上学体系

 1 フランクの生涯と著作
 2 フランクの初期の著作における人格の理念
 3 絶対的実在論の構想
 4 〈絶対者〉の自己開示としての人間存在
 5 人間と〈絶対者〉の一体性と創造の問題
 6 新しい形而上学の構築の試み、無の問題
 7 フランクの倫理学と社会哲学

第十四章 L・カルサーヴィンの人格の哲学

 1 カルサーヴィンの形而上学のグノーシス主義的起源
 2 人格の全体性とその存在の二つの次元
 3 愛の概念
 4 不完全さの正当化、イエス・キリストの歴史
 5 「原子論的」人間モデルの最終的克服
 6 不完全な全一性としての世界とその変容への道

第十五章 I・イリインの形而上学的・宗教=倫理学的探求

 1 人間存在の弁証法
 2 「哲学的行為」の構想と〈神〉と人間の同一性
 3 世界悲劇の哲学
 4 悲劇的偉業の倫理
 5 正教哲学の構築の試み

第十六章 G・シペートの現象学的哲学

 1 現象学パラダイムのロシア的変種
 2 人格の問題

第十七章 S・ブルガーコフ、P・フロレンスキー、A・ローセフの宗教と文化の哲学

 1 教義学に奉仕する哲学
 2 S・ブルガーコフ――哲学と信仰
 3 著書『黄昏れざる光』におけるロシア正教の哲学
 4 存在、人間、名前
 5 P・フロレンスキー――文化の哲学と礼拝の哲学
 6 A・ローセフの哲学的見解

第十八章 ソビエト時代における哲学の展開

 1 ロシア・マルクス主義
 2 ソ連における非マルクス主義哲学――M・バフチン、M・ママルダシヴィリ
 3 ロシア・ソビエト芸術における哲学思想――A・プラトーノフ、A・タルコフスキー


引用・参照文献一覧
人名索引

【付録】ロシア哲学史に関する研究史の概観

訳者あとがき 下里俊行

著者について
イーゴリ・イワーノヴィチ・エヴラームピエフ(Игорь Иванович Евлампиев)  
1956年、ペトロパヴロフスク゠カムチャツキーに生まれる。サンクト・ペテルブルク国立大学哲学部博士課程修了。哲学博士。現在、サンクト・ペテルブルク国立大学哲学研究所ロシア哲学・文化講座教授。専攻はロシア哲学史、ロシア文学の哲学的研究。主な著書に、Божественное и человеческое в философии Ивана Ильина. СПб., 1998. История русской метафизики в XIX-XX веках. Русская философия в поисках Абсолюта. В 2 т. СПб., 2000. Философия человека в творчестве Ф. Достоевского (от ранних произведений к «Братьям Карамазовым»). СПб., 2012. Художественная философия Андрея Тарковского. 2-е изд., переработ. и доп. Уфа, 2012. Русская философия в европейском контексте. СПб., 2017. がある。

訳者について
下里俊行(しもさととしゆき)  
1960年、長野県に生まれる。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、上越教育大学大学院教授。専攻はロシア思想史。 主な論文に、「あるロシア正教神学生の自己形成史」(『スラヴ研究』、2011年)、「『望遠鏡』編集発行人ナデージュヂンの永遠・時間・歴史概念」(『ロシア語ロシア文学研究』、2014年)、「一八六〇年代のロシアにおける進化論争」(『ロシア史研究』、2021年)がある。
坂庭淳史(さかにわあつし)  
1972年、東京都に生まれる。早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。現在、早稲田大学文学学術院教授。専攻はロシア詩・思想。主な著書に、『フョードル・チュッチェフ研究――十九世紀ロシアの「自己意識」』(マニュアルハウス、2007年)、『日本文学――ロシア人はどう読んでいるか』(東洋書店、2013年)、『プーシキンを読む』(ナウカ出版、2014年)が、主な訳書に、ソルジェニーツィン『廃墟のなかのロシア』(共訳、草思社、2000年)、アルセーニー・タルコフスキー『雪が降るまえに』(鳥影社、2007年)、プーシキン『大尉の娘』(光文社、2019年)がある。
渡辺圭(わたなべけい)
1972年、東京都に生まれる。千葉大学大学院社会文化科学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、島根県立大学国際関係学部国際関係コース講師。専攻はロシア正教会史、ロシア宗教思想史。主な著書に、『ロシア革命と亡命思想家 一九〇〇―一九四六』(共著、成文社、2006年)、『ロシア文化の方舟――ソ連崩壊から二〇年』(共著、東洋書店、2011年)がある。
小俣智史(おまたともふみ)  
1982年、東京都に生まれる。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。現在、早稲田大学文学学術院講師(任期付)。専攻はロシア思想。主な論文に、「一九〇〇年代から一九一〇年代にかけてのフョードロフ受容」(『ロシア思想史研究』、2011年)、「フョードロフにおける合唱の概念」(『ロシア語ロシア文学研究』、2014年)がある。
齋須直人(さいすなおひと)
1986年、東京都に生まれる。ゲルツェン記念ロシア国立教育大学文学部ロシア文学科大学院Ph. Dコース修了。文献学Ph. D(кандидат филологических наук)。専攻はロシア文学、ロシア宗教思想史、ドストエフスキー。主な論文に、「ザドンスクのチーホンの「自己に勝つ」ための教えとスタヴローギンの救済の問題について」(『ロシア語ロシア文学研究』、2017年)、「「西欧とロシア」の問題をめぐる二人の思想家――帰一派の思想家コンスタンチン・ゴールボフとドストエフスキー」(『ドストエフスキーとの対話』、水声社、2021年)がある。

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