3月の新刊:混乱と遊戯の香港映画

2023年 3月 2日 コメントは受け付けていません。

混乱と遊戯の香港映画書影混乱と遊戯の香港映画
作家性、産業、境界線
雑賀広海(著)

判型:A5判上製
頁数:365頁
定価:4500円+税
ISBN:978-4-8010-0714-7 C0074
装幀:宗利淳一
3月20日発売!

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切りひらけ、香港/映画の境界を
1980~90年代、香港映画の黄金期を支えた監督たちは、曖昧で流動的な境界線に囲まれた香港に何を見、何を託したのか。
父と子、監督と俳優、見るものと見られるもの、内と外、虚構と現実――
さまざまな二項対立を打ち破る混乱状態と戯れることによって祝祭的な映画空間を作り上げた、【ジャッキー・チェン】【ツイ・ハーク】【ジョニー・トー】という3人の映画人の軌跡を手がかりに解き明かす、香港映画史のダイナミクス。

***

黄金期の香港映画産業で生まれた作品について、映画製作者はどのように臨んだのか。言いかえれば、彼らは映画をどのように見ていたのか、彼らは現実と映画を切り分ける境界線をどのように認識していたのか。香港映画はとるに足らない単なる娯楽映画であり、言うなれば現実と区別された虚構の物語世界と見られることも多いが、香港人にとって香港映画はアイデンティティを探求する場として現実と連続している。その境界線は存在すると同時に曖昧でもある。この両義的な境界線は個々の映画作品にどのように働きかけるのか。境界線をめぐるテクスト生成の物語を紡ぐことで、この時代の作品だけが備えている特異性を明らかにしたい。(序章より)



目次

序章 香港映画はどこにある
第1節 映画都市としての香港
第2節 香港の死
第3節 香港映画の黄金期
第4節 父子関係と監督の作家性
第5節 本書の構成

第1部 ジャッキー・チェン

第1章 父と子、監督と俳優――「拳」シリーズにおける転倒
第1節 『笑拳』製作までの背景
第2節 独立プロダクションとコミカル・カンフーの登場
第3節 『蛇拳』と『酔拳』における父子関係
第4節 『笑拳』における父子関係
第5節 父と子、あるいは監督と俳優
おわりに

第2章 ハードボディから離れて――ジャッキー・チェンのスター・イメージにおけるハリウッド
第1節 人種/セクシュアリティ
第2節 身体/マスキュリニティ
第3節 ハリウッド・アクション・ヒーロー
おわりに

第3章 肉体と形象の境界線――落下するジャッキー・チェンの身体性
第1節 『プロジェクトA』と『要心無用』における落下
第2節 アニメーションにおける落下の表象
第3節 『ミッキーの大時計』とジャッキー・チェンの両義的身体
第4節 ギャグとしての反復
第5節 形象的な演技と空間
おわりに

第2部 ツイ・ハーク

第4章 無秩序の映画――初期三作品における境界線の主題
第1節 香港映画批評における作家主義と新浪潮
第2節 『殺人蝶』の語りにおける中心と周縁
第3節 『食人拳』の空間における中心と周縁
第4節 『暴力の掟』における中心的権威の解体
おわりに

第5章 演じる監督――シネマシティとツイ・ハーク
第1節 シネマシティの登場
第2節 シネマシティの「七怪」
第3節 多焦点の映画としてのシネマシティ作品
第4節 演技をする監督
おわりに

第6章 人間と動物の境界線――『ブレード/刀』における女性の声
第1節 声の脱身体化と身体化
第2節 身体の人間性と動物性
第3節 カメラの視線の主観性と客観性
おわりに

第3部 ジョニー・トー

第7章 中国の風景をめぐって――『謎めいた事件』における中国
第1節 文化大革命と左派映画
第2節 左派映画の戦略
第3節 キン・フーとジョニー・トーの風景論
第4節 キン・フー作品と『謎めいた事件』の風景描写
おわりに

第8章 父と監督の権威をとり戻す――ジョニー・トーのファミリー・メロドラマ
第1節 『過ぎゆく時の中で』とチョウ・ユンファ
第2節 『息子の物語』とダミアン・ラウ
第3節 『裸足のクンフー・ファイター』とティ・ロン
第4節 『愛に目覚めて』とラウ・チンワン
おわりに

第9章 規範と遊戯の境界線――『ヒーロー・ネバー・ダイ』におけるセクシュアリティ
第1節 フィルム・ノワールからネオ・ノワールへ
第2節 香港ノワールの言説
第3節 香港ノワールの変遷
第4節 香港ノワールのファム・ファタル
第5節 自己言及する女性
第6節 英雄たちの遊び
第7節 形式主義的アクション
おわりに

結論


参考文献一覧
図版出典一覧
香港映画作品一覧
香港映画人名一覧

あとがき

著者について
雑賀広海(さいかひろみ)
1990年、高知県に生まれる。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。現在、日本学術振興会特別研究員PD。専攻、映画研究。主な論文に、「三国志映画の理想化された「中国」のイメージとセクシュアリティの表象――『定軍山』から『レッドクリフ』まで」(『ユリイカ』第51巻第9号、2019年6月号)、「台湾武俠映画論――キン・フーから『黒衣の刺客』まで」(『ユリイカ』第53巻第9号、2021年8月号)などがある。

関連書
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都会喜劇と戦後民主主義――占領期の日本映画における和製ロマンチック・コメディ/具珉婀/4000円+税
フライシャー兄弟の映像的志向――混淆するアニメーションとその空間/宮本裕子/4000円+税
黒沢清と〈断続〉の映画/川崎公平/5000円+税
谷崎潤一郎と映画の存在論/佐藤未央子/4000円+税
日活ロマンポルノ 性の美学と政治学/志村三代子・ヨハン・ノルドストロム・鳩飼未緒編/3500円+税
渋谷実 巨匠にして異端/志村三代子・角尾宣信編/5000円+税
川島雄三は二度生まれる/川崎公平・北村匡平・志村三代子編/3200円+税
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