4月の新刊:『諷刺画家グランヴィル』

2014年 7月 30日 コメントは受け付けていません。

諷刺画家グランヴィル諷刺画家グランヴィル――テクストとイメージの19世紀

野村正人
A5判上製/424頁/定価=6000円+税
装幀=宗利淳一
978-4-8010-0029-2 C0098 好評発売中

 

挿絵画家として戦うこと

19世紀の視覚文化を体現した諷刺画家グランヴィル。観相学、骨相学の影響下、獣頭人間を使った政治や社会風俗を諷刺する肖像画や風俗画から、ロマン主義的挿絵本、『寓話』『ガリヴァー旅行記』等の挿絵の制作にいたるまで、徹底して挿絵画家で有り続けたのはなぜなのか? グランヴィルの作品世界を読み解き、出版・文化史的観点から考察する。

「グランヴィルが文章と挿絵を同時につくる企画に関心を持っていたのは[……]文章にたいする挿絵の従属性を乗り越えようとする信念を持っていたからである。挿絵は文章の添え物にとどまったり、先行する文章の意味を説明する役割に甘んじたりするのではなく、ひとつの独立した創作物であるべきであり、また、ともすれば軽視されがちな挿絵画家は芸術家として評価されなくてはいけない、と考えたのである。」(本文より)

【目次】
序章 グランヴィルの生涯

第一章 フランスの出版文化とその背景
1 二つの出版革命
   グーテンベルクの革命
   十九世紀の出版革命 
2 出版文化と技術革新
   紙と印刷機
   版画の技術革新
   テクストとイメージの共存
   交通と通信の発展
   腕木通信と電信
3 出版文化と社会
  フランス大革命と印刷物
  出版業界の世代交代
  出版革命の停滞
  出版界の飛躍的発展
  読者層の変化
  教育の普及
4 出版界の変化
  書物の価格と読書室
  新聞小説の誕生
  書籍の値下げ
  新聞と書籍の競合
  編集・出版者の使命
  ロマン主義挿絵本

第二章 顔――内面を映す鏡
1 グランヴィル『今日の変身物語』
2 観相学と骨相学
  古代・中世の観相学
  デッラ・ポルタの観相学
  ル・ブランの観相学
  ラファターの観相学
  骨相学の流行
3 顔と諷刺
  顔と表情への関心
  肖像画と風俗画
  ボワイイの「表情さまざま」
  グランヴィルの「表情さまざま」
  観相学の流行
  観相学の応用
  顔の単純化
  顔と狂気
  狂気と諷刺
  ドーミエと狂気
  グランヴィルと狂気
4 観相学と生態研究
  観相学の拡張
  バルザックと生態研究
  「外見から判断される内面」
  「歩き方の理論」
  『群衆の人』
  グランヴィルと生態研究
  モードの諷刺
5  人間と動物のアナロジー
  動物の寓意
  人間の頭と動物の身体
  「博物学の陳列室」
  動物の頭と人間の身体―光学と観相学
  幻灯
  変身の中間状態
  動物類似の試み
  グランヴィルとラファター
  形態類似の想像力

第三章 政治諷刺の経験
1 判じ絵としての諷刺画
  七月王政期の諷刺新聞
  「検閲の復活」
  「ガルガンチュア」
  詩と絵画
  判じ絵としての図像
  政治諷刺画の変化
  挿絵の難解さ
2 『カリカチュール』の連作
  グランヴィルの連作
  「自由の女神征伐のための大十字軍」
  言葉とイメージ
  肖像画の問題―グランヴィルとドーミエ

第四章 ラ・フォンテーヌ『寓話』の挿絵
  グランヴィルとラ・フォンテーヌ
1 ラ・フォンテーヌ『寓話』の挿絵本
  十七世紀のラ・フォンテーヌ『寓話』
  十八世紀のラ・フォンテーヌ『寓話』
  十九世紀のラ・フォンテーヌ『寓話』
2 グランヴィルによる『寓話』の挿絵
  グランヴィルの挿絵の特徴
  寓話詩の挿絵と動物
  博物学と動物園
  図像としての動物
3  動物の世界と人間の世界
  獣頭人間と寓話
  グランヴィルの試行錯誤
  テクストに忠実な挿絵
  動物と小道具
4 挿絵が示すもの
  場面か解釈か
  動物と人間の並行関係
5 『寓話』と同時代の諷刺
  挿絵の時代設定
  『寓話』と政治諷刺
  『寓話』と社会諷刺
6  グランヴィルその後
  ギュスターヴ・ドレの挿絵

第五章 グランヴィルと『動物たちの私的公的生活情景』
1 『動物たちの私的公的生活情景』の企画
  『動物たちの私的公的生活情景』の概要
  『動物たちの私的公的生活情景』の趣意書
2 『動物たちの私的公的生活情景』の制作過程
  エッツェルの仕事
  エッツェルと作家たち
  エッツェルにおける理想の本
  編集・出版者の力と限界
3 『動物たちの私的公的生活情景』におけるテクストとイメージ
  作品の扉絵とエピローグ
  獣頭人間による諷刺
  『アフリカライオン、パリへの旅』の物語
  『アフリカライオン、パリへの旅』の挿絵
  パリのカフェ 
  動物たちのカーニヴァル
  『白ツグミ物語』の挿絵

第六章 『もうひとつの世界』の挿絵
  『もうひとつの世界』という作品
1 文学と挿絵の確執
  挿絵画家の独立宣言
  事件の経緯
  文筆家と挿絵画家の確執
2 テクストとイメージの共存
  出版文化と芸術家の協調
3 文学から見た挿絵
  バルザックと挿絵
  挿絵にたいする反感――ラジュヌヴェ
  挿絵への不信――フローベール
4 イギリスとフランスの挿絵
  イギリスの事情
  ディケンズと挿絵
  イギリスとフランスの違い
5 リアリズム以降の挿絵
  挿絵本の転機
  「画家の本」
  挿絵画家から芸術家へ
6 空想旅行記としての『もうひとつの世界』
  空想旅行の系譜
  ユートピア文学の構成要素――(1)旅の目的
  ユートピア文学の構成要素――(2)ユートピアの場所
  『もうひとつの世界』の諸国遍歴
  巨人と矮人
  ユートピア文学の構成要素――(3)旅の手段
  『もうひとつの世界』の旅行術
7 異種混合のヴァリエーション
  博物学的な変身――「植物園の午後」
  カーニヴァル的変身
  動物間の異種混合
  さかさまの世界
  「四月の魚」
  「変身もの」の拡張――「貯金箱の行進」
  諷刺とペシミズム
8 形態の連続的変化
  ジョフロワ・サン=ティレールの自然観
  形態の絶えざる変容
  夢のイメージ
9 グランヴィルの宇宙論
  宇宙論とブルジョワの神話
  宇宙のアレゴリー
  ものの悪意
  十九世紀的なアレゴリー
  観念と表現の齟齬
  「モザイク」的な出版文化
  テクストとイメージの戦い 

終章 最後のグランヴィル

補遺 蟬はどこに消えたのか――ラ・フォンテーヌの「蟬と蟻」
  「蟬と蟻」
  蟬と歌
  十八世紀までの蟬の形象化
  人間の顔をした蟬
  諷刺としての寓話
  芸人の神話的イメージ
  二本足で立つ蟬
  蟬とキリギリスの混同
  グランヴィルの「蟬と蟻」
  日本の蟬のゆくえ

 図版一覧



文献一覧

人名索引

あとがき


【著者】
野村正人(のむらまさと) 1952年、愛知県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程(仏文学)満期退学。ギュスターヴ・フローベール『ボヴァリー夫人』についての研究でパリ第4大学博士号取得。東京農工大学工学部教授(同大学名誉教授)を経て、2005年より、学習院大学文学部フランス語圏文化学科教授。主な著訳書に、アラン・コルバン『時間・欲望・恐怖――歴史学と感覚の人類学』(共訳、藤原書店、1993)、『言葉と〈言葉にならぬもの〉との間に』(共著、行路社、1995)、パトリック・バルビエ『カストラートの歴史』(筑摩書房、1995)、ベルナール・コマン『パノラマの世紀』(筑摩書房、1996)、エミール・ゾラ『金』(藤原書店、2003)、『ロラン・バルト著作集6 テクスト理論の愉しみ』(みすず書房、2006)などがある。

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